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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
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本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2020/03/02 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
私の息子はサルだった
著者:佐野洋子
出版社:新潮社
息子には好きな女性がいる。亜矢さんという名前で、どうやら年上らしい。
もうすぐ25歳になる息子。その年齢の男子が、年上の女性に憧れる気持ちはよくわかる。甘えさせてくれ、時に叱ってくれる年上に心惹かれる時期があるのだ。
もちろん私は、その時期はとっくに過ぎた。やはり女子は若い方が…
妻が息子の想い人に会ってきた。といっても仕事をされているところを遠目に見ただけらしいが、とても魅力的な女性だったと興奮気味に帰ってきた。とにかく歌の上手さは別格だったようだ。
彼女の名は島津亜矢、歌怪獣と呼ばれている演歌歌手だ。
妻は息子に誘われてコンサートに行った。息子はオジサンたちに交じり、「よっ、待ってました!亜矢ちゃん!」と叫んでいたとか。
以前は麻倉未稀の歌声に魅了されていた息子。彼は、パワフルでダイナミックに歌い上げる女性シンガーが大好きなのだ。
でも、いま自分が息子と同じ25歳だったとしたら、はたして母親と一緒にライブに行くだろうか?
もちろん母親と息子の関係は様々だ。「カップルか!」と突っ込みたくなるほど仲良し親子を、たまに見かけることがある。だが、そんな母と子でも、その時々の年齢によって関係性は異なっているはずだ。母親のことを「ババア!」と呼ぶ時期が、誰しもある。うちの息子も例外ではない。それは親の保護から抜け出し、自立しようとしている証なのだ。
20代も半ばになり落ち着いてきた息子を見ていて感じる。子どもが母親から受ける影響は計り知れない。
複雑な世の中の仕組み、煩わしい他人との距離の取り方、大きく波打つ自分の気持ちとの折り合いのつけ方。物言わぬ父親の背中というより、母親との日常の何気ない会話から学んできたのではないだろうか。
個人差はあるにせよ、十数年をかけ高濃度で体に染み込んでいった母親からのメッセージは、例え「ババア!」と呼び、親離れした後でも、生涯抜け出すことはないはずだ。
「私の息子はサルだった」 佐野洋子・著 新潮文庫
解説・窪 美澄
『最後の一編「愛する者」。これは息子へのストレートなラブレターであり、常に正しい母親像を求められ、息も絶え絶えになっている母親への告解でもある。~ 母親が読めば、涙腺が崩壊するだろう。』
何でもやってくれ。子供時代を充分子供として過ごしてくれたらそれでいい―。
本を読んで、お話をして、とせがんだ幼い息子。好きな女の子が「何考えていたのかなあ」と想像する小学生の息子。中学生になり、父親を亡くした親友に接する息子…。
著者は自らの子を不思議な生き物のように観察し、成長していく姿に驚きつつ慈しむ。
没後発見された原稿を集めた、心あたたまる物語エッセイ。
佐野さんは息子を100万回抱きしめて100万回突き放す