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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2020/03/10 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


ノンフィクション

人生の1冊の絵本

著者:柳田邦男

出版社:岩波書店

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人生の1冊の絵本

「これよんで!」、児童書売場の棚から絵本を選んで来ては、母親にせがんでいる女の子がいる。母親と女の子は並んで椅子に座り、膝の上に絵本を広げる。周りを気遣い、少し小声で読み聞かせを始める母親。
児童書売場でよく見かける光景だ。ほのぼのとした気分になり、仕事中ということを忘れて聞き入ってしまうこともある。

そして懐かしく思い出す。私の母が妹に読み聞かせていた絵本に、繰り返し出てきたフレーズ。
「ほいほいやまの ほいほいさん」

妹が3歳か4歳の頃。いつも寝るときに母に読んでもらっていた。その頃、私は小学3年か4年ぐらいだ。妹と一緒に聞いていたわけではなく、寝室から漏れ聞こえてくる母の「ほいほいやまの ほいほいさん」に、「また今日も読んどるな~」、「毎日同じので飽きんのかな~」と生意気に思っていたのだ。

実は、ストーリーはよく覚えていない。「ほいほいやまの ほいほいさん」というフレーズと、言葉のリズムだけを覚えている。「ほいほいやまのてっぺんに ほいほいさんがすんでいた」とか、やたらと「ほいほい」が出てくる。この「ほいほい」というフレーズは聞いていても面白いが、実際に声に出してみると何だか気持ちが明るくなる。
さらに言えば、いま、まさに「ほいほい」とつぶやきながらパソコンに向かっているが、何だかとても気分がいいのだ。

絵本はロングセラーが多い。1960年代に発行され、今も販売され続けている作品も珍しくない。もしかすると、この絵本も探せばあるのかも知れない。この絵本を見つけて、さりげなく「覚えとる?」と妹に渡したら、懐かしさのあまり泣いてしまうのではないか。妹想いの行動を感謝され、「さすが本屋さん!」と尊敬されるのではないか。
何歳になっても兄というものは、妹に対し「ええかっこしい」なのだ。

確か「ほいほいさん」は書名になっていたはず。だが児童書売場で、そのタイトルの絵本を見かけることはない。不安に思いながら店の書籍検索システムで調べたが、やはりヒットしなかった。なのでGoogleで調べることにした。「絵本」、「ほいほいさん」と打ち込んでみた。

「ほいほいさん ひかりのくに第22巻9号/1967年 長新太」

古書店のHPに出ていた。これは幼児向け月刊絵本「ひかりのくに」に掲載されていた作品で、書籍として販売されていたものではないと分かった。また、書店で購入するのではなく、幼稚園などで年間購読の定期申し込みをして、園児が絵本袋に入れて持ち帰るというタイプだったらしい。

古書としてネットで購入することもできるようだ。本気で検討してみようかと、もう一度パソコンの画面を見た。発行が1967年とあるが、それは私が5歳の時だ。(実年齢が推測されることになり申し訳ないが)6歳下の妹は、まだ産まれていない。

でも母は妹に読み聞かせていたはずだ。とすると、私が幼稚園の時に買ってもらっていた月刊絵本を物持ちの良い母は大切にとっておき、妹がその年齢になった時に再び出してきて読み聞かせたのではないか。妹はそのなかでも「ほいほいさん」を特に気に入り、毎晩「これよんで!」と母にお願いしていたのではないだろうか。

母が妹に読み聞かせていた絵本だが、こうして懐かしく思い出され、なんだか楽しい気分にもさせてくれる。
「ほいほいさん」は、妹だけでなく、私にとっても「人生の1冊の絵本」と言えるのではないだろうか。

「人生の1冊の絵本」  柳田邦男  岩波新書
絵本と出会い、何かが変わっていくかもしれない…。
こころが何かを求めているとき、悲しみの中にいるとき、絵本を開いてみたい。幼き日の感性の甦りが、こころのもち方の転換が、いのちの物語が、人を見つめる木々の記憶が、そして祈りの静寂が、そこにはある。
150冊ほどの絵本を解説しながら、その魅力を綴る。

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