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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2020/03/17 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
人形佐七捕物帳傑作選
著者:横溝正史
出版社:KADOKAWA
SONYのウォークマンが発売されたのは1979年。私が大学生となった1981年には随分と流行っていたが、まだ持っていなかった。同じSONYだったが、自宅で使っていた音質重視のバカでかいラジカセを大阪まで持って行き下宿で鳴らしていた。
学生なので各駅停車を乗り継いで行ったが、重くて難儀した。ただ下宿なので福山の田舎のように大きな音が出せず、あまり意味がなかった。
それが、運よく学祭の抽選会でウォークマンが当たった。何かに当選したのは、中学生の時にアイスクリームの棒だったか蓋だったかを集めて応募して当てた、イルカさんの絵本「ちいさな空」以来だ。
「なごり雪」でイルカさんにハマった私は、レコードはもちろんオールナイトニッポンを聴き、エッセイ集「とんがらし」、「いるからんど」をバイブルとしていた。中学生の私は、当時20代後半だったイルカさんが既に結婚していると知り、大きなショックを受けた。
男子は、そんな思い出を引きずったまま大人になり、憧れの女性の面影を追い続けるものだ。そして私は願いを叶えた。イルカさんに似ている女性と結婚した。それが妻だ。新婚の頃、毎日イルカさんに会っているようで嬉しかった。
ただ、一緒に暮らして知ることとなった見た目と性格(私が勝手にイメージしていた)の違いには、これまた大きなショックを受けた。
それを「ギャップ萌え」と思えるようになったからこそ、現在があるのだ。
話を戻すと、ウォークマンを手に入れた大学生の私は、もちろんお気に入りの曲を編集したカセットテープを聴いていた。
当時の大学生が聴いていたのは、ユーミン、サザン、そして松田聖子だ。もちろん私も聴いていた。他には、TOTO、ジャーニー、ボストン、Yes、ポリス、スティービーワンダー、EW&F、等々、FMの音楽番組でかかるヒット曲をごちゃ混ぜでカセットに録音しては、屋外で音楽を楽しんでいた。
洋楽をヘッドホンで聴きながら歩く大阪の繁華街は、まるでニューヨーク、マンハッタンのダウンタウンのようだと感じた。もちろん行ったことないけど…
でも確かに、ミナミには「Beat It」のマイケル・ジャクソンもどきの男子がたむろしていた。「Like a Virgin」のマドンナになりきっている女子もいた。ただ振り向いた彼女のルックスが、「どやさ!」とお腹をたたく漫才師風で、とてもガッカリしたことを覚えている。
カセットテープに好きな曲だけ編集して聴くという楽しみ方は、筋金入りの音楽マニアからすれば邪道だと言われた。それは、屋外で手軽に音楽を楽しむ、その行為のことではない。聴くのはヒットしている曲だけという、いいとこ取りの姿勢に対して言っているようだ。こだわりの強い彼らは、例えリスペクトしているアーティストであってさえ、ベスト盤を認めない。
マニアから何と言われてもいい。私はベスト盤が好きだ。自分で編集したカセットテープは、もっと好きだ。それにイキって洋楽を聴いているが、本当はイルカさんが大好きだ!
自分が好きだと感じるものは、固いこと言わずに楽しんだらいい。音楽も読書も。
「NO BOOK,NO LIFE.」
音楽でいうところのベスト盤である傑作選。
「人形佐七捕物帳傑作選」 横溝正史 縄田一男・編 角川文庫
秀麗で女たらし、腕利きの岡っ引き佐七が、持ち前の度胸と明晰な推理で難事件を次々と解決していく。初登場の「羽子板娘」から、最終話「梅若水揚帳」まで全180話、すべての作品の中から選りすぐりの7話を収録。
「江戸情緒あふれる物語設定と、本格ミステリーが持つ論理的骨格の見事な融合」
解説:縄田一男
第一話が書かれたのは昭和十三年と随分昔ではあるが、講談調の語り口は読み易い。テンポのある会話、サクサク進む展開。このリズムが心地いい。現在話題の講談師、六代目神田伯山が語ったら、さぞや面白いだろうと思う。