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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2020/04/11 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
ハガキ職人タカギ!
著者:風カオル
出版社:小学館
すっかり忘れていたが、私は学士だ。学士とは大学などの卒業者に与えられる学位だ。社会学部卒なので、私は社会学士ということになる。
「ああ、シャガクね。」といわれる社会学部を選んだ一番の理由は、女子が多いと聞いたからだ。同じ理由で文学部も選択肢に入れていたが、そんな下心を隠すのに社会学部は最適だった。
二番目の理由は、将来マスコミ関係の仕事に就きたかったからだ。社会学部卒の就職先は、放送局や新聞社、出版社などが多いと知った。学校帰りに本通りの啓文社で買った「蛍雪時代」に、そう書いてあった。
大学を絞り込み、赤本を買い、願書を買った。もちろん啓文社で。息抜きに読む文庫本も買ったはずだ。篠山紀信撮影の山口百恵が表紙の「GORO」も買ったかもしれない。もちろん啓文社で。
私の人生の舵を切る「きっかけ」は啓文社で買った本だ。そして私はいま、レジで誰かの「きっかけ」を手渡している。もちろん啓文社で。
マスコミ関係といっても色々あるが、私にとってのマスコミはラジオだ。小学生の頃からラジオばかり聴いていた。低学年から視力が悪く、「テレビは見るな!」と親から言われていたからだ。
それに短波放送を聴く「BCL」もブームだった。聴いた放送内容の詳細を書いて局に送り、受信の証明書(べリカード)が送り返される。それを集めるのが楽しみだった。友達と「JAPANラジオ同好会」というのを立ち上げ、ラジオの専門誌に投稿もしていた。
友達はソニーの「スカイセンサー」、またはナショナルの「クーガ」というラジオを買ってもらっていた。ならば私は東芝と思い、親にお願いして第一産業(現エディオン)に連れて行ってもらった。結局、TVの音声も受信できる「サウンドナナハン」にした。
ラジオを聴いていたが、やっぱり心の底ではTVが見たかったのだ。なので、せめて音声だけでも…という切ない願いだ。歌番組はもちろんドラマや映画、アニメ、そしてドリフの「8時だョ!全員集合」を家族と離れて部屋でひとり「聴く」のは少し虚しくもあったが、そのお陰で想像力が鍛えられた。
もちろんラジオも引き続き聴いていた。リスナー参加型番組には何度か投稿したが、番組で読まれることはなかった。だから「ハガキ職人」と呼ばれている人達(当時その呼称は、まだなかった)に憧れを感じ、尊敬している。「ハガキ職人」になれるものなら、なってみたい。
今からでも、そちらに舵が切れるだろうか…
「ハガキ職人タカギ!」 風カオル 小学館文庫
広島県在住の高校二年生、高木正広は、筋金入りのラジオ番組のハガキ投稿オタク。今日もネタ帳とにらめっこ。クラスの女子は気味悪がって近寄ってこないが、そんなことは全く(全くでもないが)気にならない。厳選したネタを、深夜のラジオ番組に投稿することが高木の使命だから。学校では地味だが、ラジオの世界では名の知れたハガキ職人。全国のリスナーにその名を轟かす。ある日東京のハガキ職人ライブに出演することになった高木に人生の転機が訪れる。高木の運命は?
本作は第15回小学館文庫賞小説賞を受賞した青春小説。そして解説は社会学者・古市憲寿。
『才能は、社会の中で一定の評価を受け、それほどストレスなくできることを見つけていく過程で開花するものだ。残酷な言い方をすると、必死に頑張らないと成功できない時点で、その分野における才能はないと思ったほうがいい。単純に高木くんには才能があったのだ。言い換えれば、正しい場所を見つけることができれば、誰でも輝ける可能性があるということだ。』
自分で言うのもおこがましいが、「コラム職人」という呼称があるのなら、そう呼ばれてみたいと密かに思っている。なんなら私が一番にそう呼ばれてもいいけど…