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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2020/08/30 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
路(ルウ)
著者:吉田修一
出版社:文藝春秋
私は家族からユーチューバーと呼ばれている。現に先ほども妻からこう言われたばかりだ。
「休みになったらYouTubeば―見て!」
ここ広島県東部(たぶん岡山県も)では、動画をアップする人だけでなく、YouTubeばかり見ている人のこともユーチューバーと呼んでいるのだ。
「ホンマか?」と疑問を感じている他都道府県民の方もおられるだろう。もしこちらの地方出身のお知り合いが居たら、その方に真偽の程をお尋ね頂きたい。たぶんこう返されるはずだ。
「また~、嘘ば―言うて」
YouTubeで一青窈を見ていた。前回ご紹介した「私の箱子」の著者・一青妙の妹さんだ。ちょうど「ハナミズキ」が流れている時、台湾の娘から「お父さん今日休み?」とLINEが届いた。休みだよ~とスタンプを返すと、すぐ電話がかかってきた。
「たまにはお父さんにも電話してあげようかと思って・・・」
「わざわざ電話してあげた」感を前面に出す娘は、結婚してから妻に似てきた。上から目線なとこ、肝っ玉がすわっていてポジティブなとこ、財布を忘れたり素足で駆け出すとこ?お笑い好き(これは昔から)、そして旦那を尻に敷いているところまで。
こんな娘に育てた覚えはない。しかし私たち夫婦を見てこうなったのだ。これが普通の夫婦関係だと娘に刷り込んでしまったのだ。私にも責任はある。婿殿ホントに申し訳ない。
娘からLINE電話をビデオ通話に切り替えるよう指示された。私が苦手なやつだ。画面を通してだが、娘と向かい合って話をするなんて何だか恥ずかしい。恐る恐る画面を見たらアイロンをかけている娘が映っていた。家で一人アイロンをかけていた娘は、単におしゃべりの相手が欲しかっただけだ。
台湾でアイロンをかけている娘と日本でYouTubeを見ている私が、お互いの姿を見ながら何の気兼ねもなく会話ができる。恥ずかしくもあるが、安心もした。姿が見られたこともだが、海外と言っても台湾だから安心していられるのだ。
「台湾を訪れた日本人の観光客は、ほとんどの人が懐かしさを感じるという。台湾には古き良き時代の日本がそのまま残っている。だから日本人はこの街を訪れると懐かしさを感じるのです。」
これも台湾と日本の多くの人達が、これまで培ってきた長い歴史があるからだ。
「路(ルウ)」 吉田修一 文春文庫
台湾に日本の新幹線が走る。商社の台湾支局に勤める春香と日本で働く建築家・人豪の巡り逢い、台湾で生まれ戦後引き揚げた老人の後悔、「今」を謳歌する台湾人青年の日常…。新幹線事業を背景に、日台の人々の国を越え時間を越えて繋がる想いを色鮮やかに描く。台湾でも大きな話題を呼び人気を博した著者渾身の感動傑作。
語り手が変わっていき、すべての登場人物が主人公になる。一人ひとりの生き様、それぞれの物語が深く丁寧に描かれている。
台湾新幹線に関わる「プロジェクトX」や「プロフェッショナル・仕事の流儀」のようなビジネスドラマがあり、月9のような恋愛ドラマもある。そして戦中から戦後の日台関係の変化とその時代に翻弄された人々の歴史ドラマでもある。
日本統治下の台湾で生まれた日本人(湾生)である葉山勝一郎と中野赳夫という日本名を持つ呂燿宗(台湾人)の六十年越しの再会の場面は、特に印象に残った。
読んでいて台湾の風景が鮮やかに目に浮かぶ。街路樹の緑、夜市の雑踏、香辛料の香り、スクーターや車の騒音、日中の暑さまで。
YouTubeでもなくビデオ通話でもない。手触り感のある本物の台湾に出会える物語。