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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2020/09/29 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
銀翼のイカロス
著者:池井戸潤
出版社:文藝春秋
TVドラマ『半沢直樹』の最終回を見た。面白かった。そう言えば、わが家にもナ・オ・キ、ではなく堺雅人が居た、本棚に。
「文・堺雅人」を手にした。堺雅人がTV雑誌に連載していたエッセイをまとめた1冊だ。2004年から約4年間の連載なので、その頃と今では考え方は違うかもしれない。だが演じる人として「三つ子の魂」的な部分、芯のところはブレていないはずだ。
文章にその人柄がでている。関西人が言うところのシュッとしている文だ。知性的で品が良く、シュッとした“たたずまい”を感じる文章なのだ。
高校で演劇を始めたころの話、大学進学で上京するも出身である宮崎の訛りがなかなか抜けなかった話、出演した映画や舞台の話、日日の生活で感じたこと、考えていることを、やわらかな言葉でつづられている。
時代劇や歌舞伎に例えられる「半沢直樹」的な熱い語りではなく、堺雅人が素の声で語っているナレーションを聞いているようで、とても心地よかった。
映画『ハチミツとクローバー』の原作者である羽海野チカさんと対談されたとき、「どうして女の子は、ある年頃になると詩をかきだすのか?」という話題になったと書かれている。
女子は小学生の終わりから中学生にかけて、自分のコトバを綴りたくなるものらしい。それは詩に限らず、ノートにびっしりと書き込まれた日記のようなものだったり、ナイショの手紙だったりする。
ちょっと違うが、私が高校生だった時に起きた、ある出来事を思い出した。選択している科目により教室を移動して授業を受けていたが、たまたま座った席の机に「From bathroom with my love」とシャーペンで書いてみた。当時ヒットしていた山下久美子のデビュー曲、その歌い出しのところだ。ラジオでよくかかっていた。
数日後、教室を移動してまた前と同じ席に着いた。シャーペンなので少し消えかかってはいたが、私が書いた「From bathroom with my love」のすぐ下に、「バスルームから愛をこめて♥」と小さくてかわいい丸文字とハートマークが描かれていた。
おぉ「和訳返し」だ。
当時の女子は皆、小さくて丸い字を書いていた。どんな女子だろう。勝手に相手を想像する。その字のような小っちゃくて丸顔の可愛い女子かもしれない。ちょっとドキドキした。
続けて「あなたは誰ですか?」と書いていたら何かが始まったかもしれない。でも、いかにも女子風に書かれているが本当は男子かも知れない…と考えてやめにした。
だから、この話にオチはない。これで「おしまいdeath」。
そういえば最近、思いがけずちょっとしたトキメキがあった。休み明け、二つ折りにしたメモ紙が私のロッカーに貼ってあったのだ。この形状と様式は女子に違いない。
実は、コミック担当初心者の私には凄腕の助っ人がいる。西田尚美さん演じる開発投資銀行の谷川幸代のように、とても仕事がデキる女性スタッフがフォローしてくれている。
そのスタッフから売場変更に関することや、手配した商品についての連絡メモだった。業務連絡であってもいい。女子からのメモという事実が、おじさんのテンションを上げるのだ。
仕事ができる彼女とある日、「女の園の星 ①」について話していた。「いい意味で最高にくだらない!爆笑必至な女子高教師・星先生の日常」を描いたコミックだ。つい男性目線で「女子校の先生って憧れますよね~」と気やすく言ってしまった。
「そんなこと私に言われても・・・」、彼女は明らかに引いていた。
人柄が出るのは文章だけではない。一度口に出した言葉は取り返しがつかない。どうしよう…
「詫びろ、詫びろ、詫びろ、詫びろ・・・」と自分で自分に向かって連呼したが、結局心の中で土下座しただけだ。
その後、何事もなかったように普通に接してくれる彼女は、やはりデキる女子だと思った。