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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2020/10/28 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


コミック

吾峠呼世晴短編集

著者:吾峠呼世晴

出版社:集英社

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吾峠呼世晴短編集

福山市に住む男子が車の免許をとって最初に走りに行くところ、それはグリーンライン。私もそうだった。
免許をとった祝いか就職祝いか忘れたが、父が中古車を買ってくれた。日産ブルーバードのハードトップ、5速マニュアルでいい走りをする。TVCMで沢田研二が「ブルーバード、お前の時代だ。」と流し目で言っていた。まだ若造だった私は、「おー、俺の時代がくる~」と興奮したものだ。
この車に乗っているだけで、ジュリーのように女子からキャーキャーいわれてモテると信じていたのだ。

ただ車の性能がいくら良くても、合流が苦手でチンタラ走る若葉マークの助手席なんぞに女子が乗ってくれるはずがない。聞こえてくるのは女子の黄色い声ではなく、後続車のおっさんからの「早よ行けや!」という怒鳴り声だ。
「♪時の~過ぎゆくままに~この身をまかせ~」
私は小鳥のように震えながら、ハンドルにしがみつくようにブルーバードを走らせた。

それでも若葉マークの若造は、最初に走りに行くところがグリーンラインなら、仲良くなった女の子と最初にドライブに行く場所は倉敷の美観地区と決めていた。
これには理由がある。たとえ付き合う彼女が変わったとしても、初めてのデートを倉敷で統一しておくと、「最初に行ったのどこか覚えとる?」と質問された時に悩まないで済むと考えたからだ。結局そのような場面は一度もなかったが…

そんなことを思い出したのは、先日倉敷の美観地区に行ったからだ。啓文社岡山本店から、いま「鬼」のように売れているコミックを分けてもらえることになり、受け取りに行く途中で久々に立ち寄ってみたのだ。
平日だったがGoToキャンペーンのためか賑わっていた。蔦の絡まる赤煉瓦のアイビースクエアを通り抜け、白壁の建物が並ぶ通りに向かう。どちらを向いてもインスタ映えする風景だ。まわりはアベック、もといカップルと家族連ればかりだ。おじさんが一人で観光する場所ではないと気付かされた。
こんなことなら一緒に連れてくれば良かったなぁ、うちの鬼嫁ちゃん。

「吾峠呼世晴短編集」 集英社 ジャンプコミックス

コミックスは恐ろしいくらいの超ベストセラー、映画は空前の大ヒット『鬼滅の刃』の作者、吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)の短編集。
『鬼滅の刃』の前身となる「過狩り狩り」(2013年JUMPトレジャー新人漫画賞佳作)、本書のカバーを飾る異色作「文殊史郎兄弟」、掲載当時も話題を呼んだ「肋骨さん」、「蠅庭のジグザク」の読み切り四作品を収録。

「過狩り狩り」のあとがきを読むと、大ヒット作家がまだ若葉マークだった頃の様子が垣間見える。
『こちらの作品は、ジャンプの漫画賞に応募させていただいたものです。まだ担当さんについていただく前で、第三者からのアドバイス等もなく描いているので、何度か読み返さなければ意味がわからなかったりするのが大変申し訳ないです。鬼滅の刃のベースとなった作品です。ハンデがあっても普通の人より強い剣士を描きたかったのと、着物を着た吸血鬼というものはあまり見ないような気がしたので、明治・大正時代あたりで和風のドラキュラを描こうとしたのを覚えています。』

既に『鬼滅の刃』を読まれた方、これから大人買いして読まれる方。どちらにもお薦めします。これを読むと『鬼滅の刃』を語るとき、ハナタカさんになれますよ。

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