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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2020/11/18 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

向田邦子ベスト・エッセイ

著者:向田邦子・著向田和子・編

出版社:筑摩書房

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向田邦子ベスト・エッセイ

本を紹介してほしいと依頼を受けた。提示されたお題に合う本を1冊選び、84字から90字以内でお願いします、とのことだった。実は、短くまとめるのは苦手だ。年寄りになるほど話が長くなるように、私のコラムの文章は年々長くなっている。困ったことだ。
要点を押さえてシンプルに分かりやすく、それでいて印象に残る一文を考えなければならない。いまの私にとっては難題である。

まずは本の選定だ。「これはどうかなぁ~」と本棚から候補を抜き出していったら全部文庫になってしまった。
机に積み上げ、順番に手にとる。とにかく、あらすじをまとめたり、読みながら思いついたことを書いてみることにした。

「向田邦子ベスト・エッセイ」 向田邦子・著 向田和子・編 ちくま文庫
解説で角田光代さんが「向田邦子より自分が年上になったとき、ものすごく奇妙な感じがした。」と書かれている。私もずいぶん前に彼女より年上になっている。確かに、いま読んでも向田邦子は年上のままだった。この感覚は10歳年下のマツコ・デラックスが年上に思えるのと同じだ、と言ったら失礼だろうか。

「わたしの小さな古本屋」 倉敷・蟲文庫店主 田中美穂・著 ちくま文庫
前回のコラムで岡山へ行く途中に倉敷に立ち寄ったことを書いたが、本当はこの店に行くことが目的だった。著者の田中さんと少しお話が出来て嬉しかった。『「亀のひみつ」も読みました!』、告った後の女子高生のように頬を赤らめ慌てて立ち去った変なオジサンは、私です。

「ぼくは本屋のおやじさん」 早川義夫・著 ちくま文庫
親本は1982年に晶文社から発行された「就職しないで生きるには」シリーズの中の1冊。発売当時、大学生協の書籍売場で購入した。2013年に文庫化されたとき懐かしくて買った。親本のシリーズ名は「就職しないで・・・」だけど、私はこの本を読んで本屋さんに就職しようと決めた。

「独学のすすめ」 加藤秀俊・著 ちくま文庫
本書の親本(1975年発行・文藝春秋)も大学生の時に読んだ。一番始めの章が、書名にもなっている「独学のすすめ」だ。イギリスの高校卒のごく普通の動物好きな女性が、独学でチンパンジー研究の第一人者になり、「森の隣人」という大学の教科書に選ばれる本を執筆するほどになった話。人間、何かを学ぼうとするとき頼りになるのは自分自身であり、「独学」以外に学問の正道はないと言い切っている。ほぼ独学で中国語をマスターしたわが娘を改めて偉いと思った。

「私の箱子」一青妙・著 ちくま文庫
帯に「台湾の父。日本の母。」とある。娘の嫁ぎ先なので「台湾」と書いてあるだけで反応して、手にした本だ。でも、この本は少し前にコラムで紹介したのを思い出した。話が長くなるのと一緒で、年寄りは同じ話を何度もしたがるものなのだ。

「ねにもつタイプ」 岸本佐和子・著 ちくま文庫
本書もだいぶ前にコラムで紹介していた。遡って調べると2010年1月25日だった。パラパラとページをめくり、試しに出てきたところを読んでみた。笑いをこらえようとして「グフフ」と妙な笑い方になった。家で読んでいるので笑いをこらえる必要はない。でも、ついそんな笑い方をしてしまう本だ。このような文章をいつか書きたいものだ。

「名短編、ここにあり」 北村薫・宮部みゆき 編 ちくま文庫
初版は2008年だが読んだのは最近、通勤電車の中だった。「本の目利き二人の議論沸騰し、迷い、悩み、選び抜かれたとっておきのお薦め短篇12編。」とある。最初の半村良「となりの宇宙人」は大いに笑ったが、最後の円地文子「鬼」は背筋が寒くなった。妻のことを「鬼嫁」と軽々しく言わないようにしようと思った。

「カレーライスの唄」 阿川弘之・著 ちくま文庫
舞台は昭和30年代。出版社の編集部勤務の若い男女が倒産で失職、気の合う二人はカレーライス店の共同経営を目指す。父母、あるいは祖父母の年代の人々が、まだ若かりし頃の恋と仕事の物語だ。今と違っているようで、案外共通するところも多い。「戦犯の息子!」と心ない言葉を投げつけられる場面は、時代とは言えせつなくなった。

この中から例の紹介本を1冊選んで書き、提出した。もうお分かりかもしれないが、今回ご紹介した8冊は、すべて「ちくま文庫」だ。でも他意はない。このことで筑摩書房の営業さんからお礼を言われたいわけではない。褒めてもらいたいわけでもない。
ただ、いま私は、熱湯風呂を前にして「押すな!押すなよ!」と叫んでいる芸人さんと同じ気持ちでいる、とだけ書いておきたい。

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