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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2021/05/23 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
手塚治虫とトキワ荘
著者:中川右介
出版社:集英社
私にとっては都会だった。福山駅前は、いつも人で溢れていたからだ。ドラマや漫画で初めて都会に出た人が「今日はお祭りか?」という定番のセリフがあるが、まさにそんな感じだった。
天満屋百貨店、イズミ、ニチイ、ダイエーなどのショッピングビル、久松通りや本通りの商店街、福山サントーク(現さんすて福山)、いま思えば何のことはないが、華やかで夢のような場所だった。
天満屋のエレベーターガールのお姉さんに「何階ですか?」と声をかけてもらいたくて、用もないのに何度も乗ったのは、色気づき始めた小学校高学年のころだ。
また商業施設だけでなく市役所、郵便局、銀行、NHK福山放送局…、大きさの基準が学校の校舎だったので、何もかも“ぶち大きい”建物に見えた。
市の中心部に出向くことを「街に行く」と言っていた。月に一度あるかないかぐらいの一大イベントだった。小学生の頃はトモテツのバスで、中学生になると自転車で神島橋を渡る。
家を出る時は田んぼと畑ばかりだった風景が、芦田川の向こうに行くと別世界に変わっていくのだ。まさにシュガー・ベイブ「DOWN TOWN」(1975年)の歌詞、「ダウンタウンにくりだそう♪」の気分だった。
憧れのドムドムは、一人で入る勇気が出なかった。なので国道2号線沿いにあった自販機コーナーでカップヌードル(1971年発売)を食べたが、それすらもワクワクするイベントだった。
セットしてボタンを押すとお湯が出る自販機だ。例のプラスチック製フォークも付いているから、その場で食べられる。うどんやそばの自販機もあったはずだが、やっぱりナウいヤングはカップヌードルなのだ。
毎月一度、そのダウンタウンに繰り出す理由を作るため、駅前の書店(残念ながら啓文社ではない…)で学研「中一コース」を定期購読した。勉強のことだけでなく芸能ニュースや漫画も掲載されていた。「ひらひらくん青春仁義」という作品が連載されていた。とても面白かった。この漫画家は何れ有名になる!と生意気にも思っていた。作者名は、あだち充。まだデビューしたばかりだった。
福山で映画を見るのも一大イベントだ。「タワーリング・インフェルノ」(1975年)、「ジョーズ」(1975年)、「スター・ウォーズ」(1977年)、「未知との遭遇」(1978年)などパニック映画やSF映画、そして「野生の証明」(1978年)、「戦国自衛隊」(1979年)、「復活の日」(1980年)など角川映画を見た。もう小学生ではない。「東映まんがまつり」は卒業したのだ。
でも歴史に残る作品を実際に映画館で見ていたことは、今から思えば贅沢で貴重な体験だったと感じる。
初めて映画館で見た角川映画は「野生の証明」だった。高校1年だった私のお目当ては高倉健、ではなく、もちろん薬師丸ひろ子。
その後、彼女が出演した「翔んだカップル」、「セーラ服と機関銃」、「探偵物語」、「里見八犬伝」を映画館で見た。「探偵物語」(1983年)の時、私は大学生になっていた。大阪・梅田の映画館でオールナイト上映だった。同時上映は原田知世・初主演「時をかける少女」。朝まで繰り返し見た。
映画とは全く関係ないが、見終わって始発の地下鉄で帰る時、駅で見かけた女性に違和感があった。スカートだったが、ガタイは見上げるほどに“ぶち大きい”女の人なのだ。酔っているようだが、それにしても歩き方が普通の女の人とは違う。あっ、髭が生えかけとる!こ、こ、これが噂の…
福山が都会なら、大阪は超の付く大都会だと感じた。
先月「啓文社スタッフおすすめ本フェア」(第1弾フェアは終了、第2弾をお楽しみに)で、我らが店長Mお勧めの中川右介・著『角川映画 1976-1986[増補版]』(角川文庫)を購入した。
「読んでから見るか、見てから読むか 角川映画の全盛期を振り返った傑作ルポ」だ。あの頃、私がワクワクしながら見ていた、キラキラした世界の内側というか裏側が、つまびらかに記されている。
小説と映画と主題歌、そして憧れのアイドル。この四つは、あの頃の私にとって無くてはならない存在だった。まさに青春四天王だ。すべて角川書店が見せて、いや魅せてくれたのだ。
先日『手塚治虫とトキワ荘』(集英社文庫)を購入した。著者は同じく中川右介、絶対面白いはずだ。それに解説は、我らが店長Mだ。でも、ここは名前を出していいでしょう。いや、もっと出すべきですよ、店長!
『手塚治虫とトキワ荘』中川右介 集英社文庫
解説:三島政幸(みしま・まさゆき)書店員
啓文社西条店勤務
と言っても、本書は先日発売されたばかりで、まだ読んでいる最中だ。今日は休みなのでリアルに、いま、まさに読んでいる。でも読了していないのにコラムに書くなんて、勇み足ではないか。それには理由がある。マンガ史であり出版史でもある本書には、講談社、小学館、光文社、集英社など出版社名が出てくるが、ふと思い出して、ある本を手にした。間違いない。書いてあった。
このウンチクを語りたい、今すぐに。
それは司馬遼太郎・著「余話として」(文春文庫)に書かれている、剣術の名手の話だ。
『どういう名人でも、負けるときは負ける。~ が、百年に一度くらいは、絶対強にちかい名手が出る。~ 昭和八年の「昭和天覧試合」における野間恒選手がその稀有の記録をつくっている。~ 東京府予選の段階から一本も打たれることなくすすみ、本試合で各府県代表と試合をすすめていっても、試合ぶりはすこしもゆるがない。』
これほどの強さが現実にありうるかと思われるほどの記録で全国優勝した野間恒選手は、講談社の創設者・野間清治のひとり息子、そして二代目社長だ。
長くなってしまった。なので今回のコラムは、逃げるように終わる…