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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2021/06/06 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


ノンフィクション

尾道坂道書店事件簿

著者:児玉憲宗

出版社:本の雑誌社

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尾道坂道書店事件簿

S店長とO店長が、「本屋にいるとなぜか便意を催しトイレに行きたくなる」という都市伝説のような話をしていました。なにそれ?最新のネットニュース?と思われた方には申し訳ありませんが、35年位前の話題です。

S店長とO店長、そしてM店長は、泣く子も黙る当社のレジェンド店長です。その頃30代後半から40代だった御三方は、店舗運営において三者三様で、それぞれ独自のスタイルを持ち、バリバリと音がするかのごとく“モーレツ”に仕事をされていました。

入社2年目、まだまだ“ひよっ子”だった私が、恐れ多くもS店長とO店長の話に割り込んで良いものかと少し迷いましたが、思い切って「それは青木まりこ現象のことですね。」と、『本の雑誌』で得た情報を伝えました。
「おー知っとるか!」、お二人がまるでハモるかのように、そして笑顔で反応して頂き、とても嬉しかったのを覚えています。一緒に書店で働く仲間として受け入れてもらえた感じがしたからです。
なので啓文社の店長の皆さん、スタッフのいいと思える行動には即反応して、大げさなぐらい褒めて下さいね。

でも「青木まりこ現象」について間違いがあってはいけないと思い立ち、本棚から『別冊本の雑誌⑰ 本屋の雑誌』を抜き出して確認しました。
内容は合っていましたが、少し違っていました。この話題が特集されていた『本の雑誌41号』は1985年発行。入社2年目ではなく1年目でした。大昔のことなのでどちらでもよいのですが…

その後S店長は、春日町に新しくできるコア店(1987年7月開店)の初代店長として赴任されることが決まりました。
当時私が勤務していた福山本通り店の4階で、コア店に導入されるサウンドレンタル準備のためLPレコード(CDが一般に普及する前なので最初はレコードレンタルでした)に管理用のシール貼り作業を手伝っている時、S店長とO店長が話をされていました。いつも盗み聴きしているようで何なんですが、新規出店についてなのでやはり気になり聞き耳を立てました。
ただO店長は声が大きいので、普通にしていても聞こえました。

話されていたのは、S店長が「新店に連れて行く」と表明されていた社員についてでした。いつも辛口のお二人が、「いま若手の中で一番勉強熱心」、「センスがいいよね」とベタ褒めでした。1年先輩の児玉憲宗さんのことです。

児玉さんの著書『尾道坂道書店事件簿』には、もちろんその頃のエピソードが綴られています。

売場面積六十坪の三原店に勤務されていた児玉さんが、「大きな店で働く先輩社員が羨ましい」とこぼすと、「六十坪の書店で働く書店員は六十坪分の商品知識しかなくていいのか。言い訳をせず、大きな書店の書店員よりも幅広い商品知識が持てるように勉強すればいい。」と言われた、とあります。
続けて「これを境に、休みの日には他の書店を見てまわることを習慣にした。出版社には『三原店にもぜひ寄って下さい』と片っ端から電話した。」と書かれています。

児玉さんの意識を変え、私たちが知っている「本が好き、本を売るのはもっと好き」な児玉さんになったのは、書店員の先輩である店長からのアドバイスに真摯に向き合い、本を人一倍読み、勉強を続けていったからだと感じます。

先月のことですが、人と本や本屋さんとをつなぐWEBメディア「ほんのひきだし」の「本屋を歩く~本屋さんのおすすめ本」に、『尾道坂道書店事件簿』を紹介(日販通信2021年5月号「わが店のイチオシ本」より転載)させて頂きました。

児玉さんが鬼籍に入られて5年が過ぎ、当社のスタッフもですが、その間、新たに書店員の仲間に入ってこられた人も多いと思います。
その方々に『尾道坂道書店事件簿』を通して、児玉さんが何を経験され、失敗して悩み、それでも考えて考えて、書店員ならではの楽しさを見つけていったのか、知って頂きたかったのです。

それは書店員の在り方に迷っている、いまの私たちも。

実は、WEB「ほんのひきだし」に掲載されると同時に、このコラムでも「尾道坂道書店事件簿」をご紹介しようと思っていました。コラムにリンクを張って頂いたからです。
でも恥ずかしくて、すぐには出来ませんでした。そこには触れてはいけない、でも避けては通れない事実があります。「ほんのひきだし」に私の顔写真が!

お見苦しくて本当に申し訳ありません。でも対処法が二通りあります。簡単なのは写真をあってないものとして完全にスルーしてしまうことです。もう一つは、お好きなイケメンの写真を被せて隠してしまうことです。
ちなみに私の希望は、綾野剛もしくは長谷川博己です。

こんなこと書いて炎上しなければいいのですが…、でも児玉さんは面白がってくれていると信じています。

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