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本さえあれば、 日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


2021/06/25 更新

本さえあれば、 日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

瑠璃の雫

著者:伊岡 瞬

出版社:KADOKAWA

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瑠璃の雫

YouTubeを検索しながら見ていると、「こんなの好きでしょ?」と勝手におすすめ動画を提示してくれます。出てきたのは昔の「金曜ロードショー」オープニングテーマ曲、「フライデー・ナイト・ファンタジー」でした。
確かに好きです。哀愁を帯び、憂いに満ちたトランペットの音色。そして何とも言えない切ないメロディ。
きゅんです。

ケニー・ドーハムが好きです。1950年代から60年代にかけて活躍したジャズトランぺッターです。「静かなるケニー」、「ショウボート」、「ウナ・マス」、CDを3枚持っています。なかでも好きなのは「静かなるケニー」。息子に譲ってもらったONKYOのスピーカーで低く鳴らしながらの読書。至福の時間です。

ジャズに詳しい人からは、『ふ~ん、ケニー・ドーハムね。でも「静かなるケニー」が好きって、ずいぶんベタだね。』、と冷笑されるかもしれません。
そして畳み掛けるように、『「アフロ・キューバン」は持ってる?「カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム」は聴いた?彼の本質は“静か”ではなくアグレッシブ、あのラテンな感じの…』と、いつのまにかマウントをとられています。
さらに、『そもそも「静かなるケニー」が、“いぶし銀の職人”という地味なイメージを定着させてしまったんだから』云々とウンチクを熱弁されたら、私は黙って聞いているしかありません。

「やなやつ!やなやつ!やなやつ!やなやつ!」
心の中で思いながらも同調して頷いている私がいます。

実はこれ、妄想です。いわゆる被害妄想です。本当は、そんなこと言われた経験はありません。なんで、そんなにネガティブ思考なんでしょうか?
私のなかには、自分にツッコミを入れる「もう一人の私」がいます。世の中には、私が好きなものを、私より何倍も何十倍も好きな人がいる。もっともっと詳しい人がいる、本質をとらえ上手に語る人がいる。

CDを2枚、3枚聴いただけ、本を2冊、3冊読んだだけ。そんな自分ごときが軽々しく「好きだ」と言ってはいけない。お前は何を知っているというのだ。出しゃばらず黙って一人だけで楽しんでいればいい。
素直な気持ちを表そうとする私に、「もう一人の私」がブレーキをかけます。「秘すれば花」とも言うし、ここは黙して語らず・・・

でもそれは、まだ若かった過去の話。今は違います。人間、歳をとると厚かましくなるのです。いいんです!好きなら好きと言えば。私はケニー・ドーハムの静かで熱いトランペットが好きです。伊岡瞬の描く、泣けるミステリー、泣けるハードボイルドが大好きです。

「瑠璃の雫」 伊岡 瞬 角川文庫
母と弟の3人で暮らす小学6年生の杉原美緒。母のアルコール依存によって、親類に引き取られた美緒は心を閉ざしていく。そんな折、元検事の永瀬丈太郎という初老の男と出会う。美緒は永瀬の人柄に心を開いていくが、彼はひとり娘を誘拐されており、大きな心の傷を抱えていた。数年後、美緒は事件を調べ始め、あまりにも哀しい真実を知る。家族とは何か。赦しとは何か。今最も注目を受ける気鋭が贈る、慟哭のミステリ巨編!

角川文庫の帯には「ハマるぞ!伊岡瞬」とあります。小説でもエッセイでも“ほのぼの”系が好きな私が、慟哭のミステリやハードボイルドにハマるでしょうか?
「そんなわけないやろ」、半信半疑で「瑠璃の雫」を読み始めました。

美緒の右手の人差し指は、外側の皮膚がひきつったように光り、先端は不自然な恰好で丸くなっている。赤ん坊の頃、母親にハイヒールで踏まれたのだ。それも二度。
一度目は皮を削ぎ、二度目は爪の先を踏みつぶした。そして美緒はいつの頃からか、この指の背を噛む癖がついた。不幸な出来事に出会うたび、美緒は自分の指を噛む。時に噛みちぎるほどの強さで。自分を守るための自傷行為だ。そうしないと耐えられないほどの痛みと対峙している美緒。
指を噛むことのない穏やかな日が、美緒に来るのか。最後までページをめくる手は止まりません。

「瑠璃の雫」読了。と同時に読み始めました。“優しくも悲しき負け犬たちが起こす、ひとつの奇跡” 伊岡瞬のデビュー作「いつか、虹の向こうへ」。
それも読み終わり、また続けて読んでいました。“曇りがちな私たちの心を晴れやかにする連作ミステリー”「教室に雨は降らない」
「ハマるぞ!伊岡瞬」、ホントです。

私と同じく伊岡瞬にハマった貴方。間違っていません。自信をもってお知り合いに広めてください。ついでと言ってはなんですが、「本さえあれば、日日平安」も…

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