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いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?
2021/08/04 更新
いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
フィクション
テスカトリポカ
著者:佐藤究
出版社:KADOKAWA
第165回直木賞、第34回山本周五郎賞、W受賞作品です。
『歴史がどうやって進むかわかったよ。』
本の中に沈み込んでいると不意に子どもに話しかけられた。
歴史が、進む?それは時間のためではなく?文明が進むと言いたいのだろうか。いつもながら、言葉や、自分以外の感覚のとらえ方が独特な人だ。
『人が、人を殺すと歴史は先に進むんだよ。』
息を止める。とっさの時に出す穏やかなほほえみで顔を固定する。次の言葉をどんな言葉をかけ引き出そうか頭の中は猛烈に回転している。抱えていた「テスカトリポカ」を、彼の興味を惹かないように、ゆっくりと伏せる。
彼の手にしたノートから、かわいそうな入鹿や、気の毒な信長がこっちを見ている。
わたしはいつも勘違いをしている。
今ある世界が正しくて当たり前なのだと。
古代アステカでは、人間の生贄を神に捧げるのはあたりまえだし、世界中で犯罪によって人は命を落とす。戦場の英雄とは何をした人だろう。日本だって食事や身の回りの世話もされず、夢を持つこともできなくなった子どもがいる。
たしかに、そうなんだけれど。
奪い取ることだけが人間の本質なのだろうか。時代や国のパッケージが違えば、世界は簡単にひっくり返るのだろうか。
世界的ビジネスになっていく犯罪組織。神の数だけの正義があふれる世界。
復讐を誓う麻薬密売人のバルミロと、自分の痛みにも気づいていないような孤独な少年コシモ。
人間の、世界のおそろしさ。繰り返される復讐と流される血。
けれどもこの小説は、それだけではない。人間はきっとそれだけじゃない。
この本を読んで、とても希望が持てるとは言えません。けれども絶望するには不安要素があります。
真っ黒に塗りつぶそうとしても、どうしても塗り残しが出来てしまうみたいに。
ほんまに~、歴史のノート、○○が倒された話ばっかりじゃね。
まぁでも、昔のこと過ぎてショッキングなニュースしか残ってないだけじゃない?
昔の人もっと話し合いなよって感じじゃね。
もっとましな返しがあっただろうか…。
本当にいろいろむずかしいな。