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本さえあれば、 日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


2021/09/03 更新

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ノンフィクション

AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争

著者:庭田杏珠 渡邉英徳

出版社:光文社

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AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争

わが家の子どもたちは、映画やドラマで終戦直後の焼け跡や闇市を走り回るイガグリ頭の子どもを見ては、「そうか、お父さんが子どもの頃は、あんな感じだったのか」と納得した顔でつぶやく。平成生まれの娘や息子からすれば、昭和20年代も私が生まれた30年代も「戦後まもなく」という同じ括りで、大差はないそうだ。

確かに私が赤ん坊の時の写真はみんな白黒だ。小学校の卒業アルバムでさえカラーはわずかで、ほとんど白黒だった。入学式や卒業式で学校に来るお母さんたち、その半数は和装という時代だったのだ。
もっと分かりやすく言えば、私が生まれたのは前回の東京オリンピックよりもまだ前だ。でも2歳だったから、もちろん記憶はない。ちなみに姉さん女房の妻は幼稚園の年長さんで、聖火リレーが来るからと沿道で旗を振った記憶があるらしい。
きっとその姿は、ぶち可愛かったに違いない、と一応書いておく…

私が誕生した年を仮に今年(令和3年)として考えれば、終戦は平成16年(2004年)、現在の高校2年生が生まれた頃だ。
どうだろうか?いま40歳以上の方なら、そんなに昔とは感じないのでは、50歳以上なら「ちょっと前」と表現するかもしれない。だから私が生まれた頃は、「もはや戦後ではない」と言われながらも、あの時代からの「地続き」感はかなり強かったはずだ。
「戦後まもなく生まれ」は団塊の世代だけでなく、昭和30年代生まれも含まれるのだ(*あくまでも個人の感想です)。

父の病院への送り迎えの日に、庭田杏珠×渡邉英徳(「記憶の解凍」プロジェクト)『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書)を持参した。最新のAI(人工知能)技術と当事者への取材や資料をもとに人の手でモノクロ写真を彩色、カラー化した写真集だ。

今年90歳の父は終戦(昭和20年)の時に14歳。本書のタイトルと内容を手短に伝え、まず1945年8月8日福山大空襲のページを見てもらった。福山城月見櫓付近から撮影した1枚。解説には「91機のB-29の攻撃により、死者354人、負傷者864人、焼失家屋数1万179戸、罹災者4万7326人。福山市民の82%が被災」とある。
「福山の空襲か…、あんときは家から見とった。」と、いろんな話を聞かせてくれた。

農家の長男である父は、小学校を卒業してすぐに実家を離れ、広島県甲奴郡(現府中市)上下町(お笑いコンビ・アンガールズ田中さんの故郷)にある農学校で学んでいた。戦時下でも家に居れば食べ物に困ることはなかったはずだが、寄宿舎でいつもお腹をすかしていたという。せっかく実家から持参したり送られた食料も上級生に盗られ、なんとか死守した“おもち”を硬いまま、布団の中に隠れて齧っていたそうだ。
それでも夜中に少しの塩を握りしめ、近くの畑に忍び込みキュウリを盗み食いしたとも聞く。「上手いことしたんで一回も見つからんかったで~」と自慢げだ。生きるために必死だったことがうかがえる。
そんな父からすれば、のんびりした性格の私を見ているとじれったく、甘っちょろく感じるのも仕方ないことかもしれない。

水兵さんだった父親(私にとっての祖父)に会いに行ったことも話してくれた。親戚のおじさんと一緒に呉線で行ったそうだ。汽車の海側の窓は、外が見えないように板で覆われていたことを覚えているとのことだ。たぶん軍の施設を一般人に見せたくなかったのだろう。
要領の良かった祖父は案外と簡単な任務についおり、「毎日釣りばっかりしとるんじゃ」と笑いながら父に説明したと聞いた。あのご時勢でそんなことが許されるだろうか。もしかすると、息子である父に心配かけまいとしていたのかも知れない。
話を聞いて「何だか再現ドラマのワンシーンみたい」と単純に思った私は、やはり戦後生まれの甘ちゃんだ。

病院の待合でも父は本書を離さず、ずっと読んでいた。こんなことを言っては何だが、本書の説明文の字は小さくて私でも読みづらい。それでも食い入るように父は読んでいた。すると「この本は売れとるんか?」と聞いてきたので、「今年の広島本大賞で、よう売れとるよ。」と答えた。「ほうか」と父は、また本書に向き直った。看護師さんが名前を呼ぶ声も聞こえないくらい熱心に。
まあ、耳が遠いと言えばそれまでだが…

巻頭の「記憶の解凍」で渡邉英徳さんは、『カラー化によって、白黒の世界で「凍りついて」いた過去の時が「流れ」はじめ、遠いむかしの戦争が、いまの日常と地続きになります。そして、たとえば当時の世相・文化・生活のようすなど、写し込まれたできごとにまつわる、ゆたかな対話が生みだされます。』と述べられている。
また庭田杏珠さんは、巻末の「時を刻みはじめる」でこのように書かれている。『たとえば、本書を囲んでおじいちゃんやおばあちゃんに戦前の暮らしについて聞いてみたり、一人でじっくり戦争や平和について考えてみたり。それぞれが感じた想いをまた、大切な友達や家族に伝えてほしいな、と思います。』

広島の書店員として、大切な1冊が生まれた。

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