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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2021/09/19 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

続・僕の姉ちゃん

著者:益田ミリ

出版社:幻冬舎

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続・僕の姉ちゃん

「壁ドン」からの「あごクイ」、「頭ポンポン」もしくは「おでこコツン」のあとで「バックハグ」
これら全て経験済みだ。もちろん相手は妻。もう少しで32回目の結婚記念日がくるが、おかげさまで今も仲良くさせてもらっている。

だが定番の「お姫さま抱っこ」だけは実行したことがない。私が腰痛持ちということもあるが、物理的に無理なのだ。妻がスリムになって、私がマッチョにならない限り不可能だ。もっと若い頃に挑戦しておくべきだったと後悔している。

アラ還夫婦のスリム化とマッチョ化計画。せめてどちらか一方でも成功すれば、いまからでも何とかなるのではと思うのだが、冷蔵庫にあるスイーツは奪い合うもの、延長しているダイエット開始のタイミングは譲り合うものという私たちにとって、今世紀中の実現はかなり難しい。
他の方法はないものかとネットで調べると、重い荷物を持つときに補助してくれる機器があることが分かった。パワースーツとかアシストスーツなどの名称で、体に装着して農作業の時など力仕事で使われているそうだ。関連会社である製作所が開発してくれないだろうか?
(ドラえもんの口調で)「お姫さま抱っこス~ツ!」

このような妄想がまた始まったのは、益田ミリ・著「続・僕の姉ちゃん」(幻冬舎文庫)を読んだからだ。
本書は姉と弟の会話だけで構成されている。例えばこんな感じだ。

弟くんからの『女子ってさ、一日中「かわいい」って言ってない?』に対する姉の回答は、『女子にとっての「かわいい」は、もはや言葉ではない。呼吸の一部、言わないと死ぬんだよ』、そして『まだあった、呼吸の一部、「やせたーい」』と姉は言う。
でもこれは文字通り、まだ「かわいい」と思える話だ。

同窓会前夜に卒業アルバムを見ている姉は、当日会ってから“好きだった男子”を決めるというのだ。中学の時にカッコよかった男子が、今もそのままとは限らない。誰が「いい男」に成長しているか分からないからだ。
当日発見した、いまリアルに「いい男」となった男子に『実は昔、好きだったんだよね~』と言うために卒アルで顔と部活を一致させておく。これは女子にとって当たり前のこと?何だか怖い。弟くんのセリフではないが、引く。
引く…、確かに引く…けれども、一生に一度は女子から言われてみたい。『実は昔、好きだったんだよね~』と。

弟くんが飲んだ後に大学時代の友達の家に行く。友達は彼女と同棲中だ。「冷蔵庫にあるもの」で、ちゃちゃっとおいしい料理を出してくれた友達の彼女を「めちゃくちゃいい子」と褒める弟くん。
姉は、『冷蔵庫にあるもので作ったと、男に信じこませるために買っておく食材、というものが女の段取りにはあってね』と諭す。
でもこれは結婚後も使えるので、女子は身につけておいて損はないと思う…、なんてことを言うとセクハラになるのだろう、今は。

残業続きの弟くんは、『毎日大変ですね~』と言ってくれる女子をいい感じに思っている。
それに対して姉は、『女が出す「ちゃんと見てるよビーム」は、男を落とすためのベーシックな武器』であり、『「お母さん、ちゃんとみてるからね」と同じ成分でできているから、男の子はクラクラきちゃうわけ』、と解説する。
そうだ。私もこれで妻に落とされたのだった…

姉と弟という設定が絶妙だ。兄と妹だとこのような会話にはならない。もちろん、それぞれの兄妹で違いはあるだろうが、私にも妹がいるのでわかる。さらに言えば、姉さん女房なので、女の人が上から目線で「何でもお見通しだよ」というこの感じが、よ~くわかる。

妻と付きあい始めてすぐにブローチをプレゼントした。社員旅行で購入したが、実は他の女子に贈ろうとしていたものだ。結局、渡せずじまいだった。捨てるのは勿体ないと思っていたので「おっ、ちょうどいいや」と軽く考えた。

「ありがとう!でも、これって私に買ったんじゃないでしょう~」
一目で見破られた。渡すタイミングが早すぎた(2回目のデート)というより、妻のイメージではないからだ。当たり前だ。違う女の人を想いながら選んだからだ。今なら上手くごまかせるだろうが、何しろ26歳の若造だったのだ。

「まあ、でも貰っといてあげる。その代わりにね…」
その後の私の人生が決まった瞬間だ。

本書だけでなく、「僕の姉ちゃん」シリーズは素晴らしい作品集だ。アラサーOLの姉が新米サラリーマンの弟を諭している言葉がとても勉強になる。「えっ、そうなん!?」と驚き、「なるほどね~」と感心する名言と愛ある助言に溢れている。
私にとっては、もっと早く出版して欲しかったところだが、何事でも勉強するのに遅すぎることはない。

「男と女の間に友情はあるのか?」と質問してくる男とは、「姉ちゃん、友情はムリだわ」
「好きなタイプの女子は?」には「やさしい子」、「聞き上手」「家庭的」などはバツ、「走るのが速い子」の方が好感度アップ
「姉ちゃんが思う、大人の男って?」、「それはね、大人の女と付きあえる男だよ」
「壁ドンとお姫さま抱っこ、どっちが好み?」、「そんなのよりもっとすごいのが存在するのだゾ、はじめて手をつなぐ瞬間、最強!」

これは、まず息子に貸してあげよう。あの時の私と同じ、26歳の息子に。

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