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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2021/09/30 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


ノンフィクション

わたしのなつかしい一冊

著者:池澤夏樹・編 寄藤文平・絵

出版社:毎日新聞出版

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わたしのなつかしい一冊

その手があったか!
「いつか読書をする人へ」(2021/09/29更新、新井素子著「ゆっくり十まで」)を読んでハッとしました。これまで依頼され色んなところで「おすすめ本」を紹介してきましたが、その文章をコラムに載せてもいいんだ。そうだ、著作権は私にある(はず)。
いつかさん、ありがとうございます。

パソコンのフォルダに残っていた原稿から探して見つけました。なつかしい1冊、ではなくて2冊。
ちなみに、この原稿は2011年3月22日に書きました。当時28歳…、のはずがなくプラス20歳、アラフィフでした。

~ ここからおすすめ文(少しだけ加筆・修正しています) ~

発売以来、コツコツ、ジワジワと売れている小説?もちろん有ります。ただ残念なことに、もう私だけの「おすすめ本」ではありません。当店をはじめ多くの書店と書店員が、大きな声で自信を持っておすすめしている本です。

それは『第1回広島本大賞』の受賞作です。
広島の書店を盛り上げよう!と広島の書店&タウン誌のスタッフが、タッグを組んで立ち上げた企画。
条件は2つ。まず「広島が舞台の作品。もしくは、著者が広島在住or広島出身」であること。そして「現在も書店で入手可能なもの」というものです。
ノミネートされた11作品の中から選ばれた栄えある第1回の大賞が、次の2作品です。

1冊は中島京子さん初の児童文学、『ハブテトル ハブテトラン』。
東京から母の故郷・広島県福山市松永の小学校に、2学期だけ通うことになった小学5年生・大輔君の成長物語。驚きと発見に満ちた男の子のエンタな毎日が、瀬戸内の海のようにキラキラと、そしてイキイキと描かれています。また、もう一歩大人に近づくためには避けられない「成長痛」に真摯に向き合う姿は、誰もが応援したくなります。
男の子は冒険を通して親の知らないところ、見ていないところで成長するものです。読者は、まさにその瞬間に立ち会えた幸せに浸れます。

もう1冊は光原百合さんの連作ファンタジー『扉守(とびらもり) 潮ノ道の旅人』。
舞台は瀬戸内沿岸の海と山に囲まれた懐かしいまち・潮ノ道。言うまでもなく、著者の故郷・尾道がモデルです。「この土地には妙な力」がある。その為に引き寄せられて来た何者かが起こす不思議な出来事を、「お寺の住職だかやっているふざけた爺さん」了斎が招いた魔力・霊力の持ち主たちが見事に解決していきます。その方法は、全てを包み込む温かいまなざしを向けること。それは著者自身の故郷へのまなざしに違いありません。
縁あって本書を手にしてこの世界に触れた貴方は、優しさと奇跡があふれている海辺の町を、きっと訪れてみたくなります。

中島さんの作品の「ハブテトル」は、備後地方の方言で「すねている」という意味です。この方言は光原さんの作中にも、しばしば登場します。両作品とも、全編にわたってテンポよく繰り出される備後弁の数々。よくぞこの感じを文章で表せたものです。
この2作品は『第1回広島本大賞』という特別な作品になりましたが、地元の私たちにとっては永遠に、声に出して読みたいほど身近で愛着のある「おすすめ本」であり続けるはずです。

いまは両作品とも、ちょっと手に入れにくくなっていますが、「読みたくなった!」と感じて頂ければ幸いです。

そして、ここから今回のおすすめ本の紹介。

『わたしのなつかしい一冊』 池澤夏樹・編 寄藤文平・絵 毎日新聞出版
友情、自由、冒険、歴史・・・全部本が教えてくれた。人気作家ら50人が、何度も読み返す〈人生の一冊〉を語る。軽やかな絵と文章でおくるブックガイド。

私が最も感銘を受けたのは、ドストエフスキー・作『白痴』を紹介している土屋賢二氏の文章です。

「人生を決めたのは、大学入学後、寮で過ごした一年間だった。寮生たちは授業には出ない、風呂には入らない、当たり前のように規則を破る、試験前は徹夜で麻雀する、平気で何年も留年する。こんな魅力的な生活態度に染まらない人はいないだろう。これで、疑いもしなかった価値観が完全に崩れた。」

魅力的な書き出しにグッと心を掴まれました。そして土屋氏の価値観を根こそぎ破壊したのは、実は読書だったと続きます。ドストエフスキーを片っ端から読み、「価値観が一つ残らず音を立てて崩れ」て哲学に転向した、とのことです。

「価値観を破壊しただけではない。生まれて初めて文章の魅力に目を開かされた。それまで文章に関心がなく、小学校の作文はすべて父に書いてもらっていた。世の中から戦争と作文がなくなることを願っていた。」
いつもの土屋節に、「それから?」と続きが読みたくなります。

ふつう展開を予測しながら本を読みますが、『白痴』を読むと「予測を立てては裏切られ、予測し直しては裏切られ、の繰り返しで常識が壊されていき、気づくと人間と世界の底知れなさに圧倒されているのだ。」
やはり土屋氏はプロの読み手であり書き手です。

「読者の予測を裏切る手法は、読者を引き込むミステリなどの基本手口だ。昔、路上でインチキ商品を売っていた香具師もこの手法を使っていた。わたしはこの手法に弱く、何度もカモにされ、ミステリにはいまだにカモにされている。」

私はこのような本の紹介に弱い、完全にカモにされています。すぐに『白痴』を手にしたかは別にして…
この本が読みたい!こんな風に本の紹介がしたい!と思わせる1冊です。

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