おすすめの本RECOMMEND
あなたも3分でミステリ通になれる(仮)
政宗九がおすすめする本です。
某店店長でもあり、ミステリマニアとしても知られる「政宗九」によるミステリコラム。
これを読めば、あなたもミステリ通です。
2021/09/30 更新
あなたも3分でミステリ通になれる(仮)
政宗九がおすすめする本です。
フィクション
君の顔では泣けない
著者:君嶋彼方
出版社:KADOKAWA
お久しぶりです。政宗九です。
このHP内で、ずっと昔にミステリのコラムを書いていました。
今回、その当時のタイトル「あなたも3分でミステリ通になれる(仮)」が復活し、コラムの形で再開することになりました。よろしくお願いします。
さて、このコラムでは、あるテーマに従って、初心者向けながらもややマニアックなミステリネタを書いてきました。そのスタンスは変えずに行こうと思いますが、特に紹介したい本に出合った時は、ミステリに限らなくても紹介していこうと思います。
というわけで、再開一発目は今日読み終えて大傑作だった小説の紹介です。
君嶋彼方さん『君の顔では泣けない』(KADOKAWA)
「小説野性時代新人賞受賞作」のデビュー作ですが、いきなりやってくれました。
二人の男女が、あることをきっかけに、心と身体が入れ替わってしまいます。
……と書けば、ああ、よくあるネタよね、ほらほら、「転校生」とか「君の名は。」とか。
そうです。そのネタなんですが……この作品には今までになかった新機軸があります。
男女は、心と身体が入れ替わったまま、15年間、生活を続けているのです!
しかもこの二人、まなみと陸は、特に仲いいわけでもなかったのに入れ替わったので、お互いのことを全く知らない状態から始まりました。友達の名前は?なんと呼んでいるのか?家族の呼称は?家の独自ルールは?……入れ替わって以降、二人は密かに情報交換を重ね、なんとか入れ替わったままで生活を続けていこうと試行錯誤します。
やがて大人になり、結婚、出産を経験していくまなみ(中身は陸)。いつ二人は元に戻るのか、そもそも、元に戻ることなんてあるのか……?
設定だけで充分面白い作品ですが、主にまなみの中にいる陸の視点で描かれる、その心理描写が本当に素晴らしい。自分なのに自分でない人生を生きる葛藤と、それを乗り越えようとする気持ちの変化。こんな表現で人生を肯定する小説ってあったんだ、と思える作品です。
ぜひ読んでみてください。
ミステリではないけど、ミステリ的設定の小説ということでお許しを。