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あなたも3分でミステリ通になれる(仮)

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政宗九がおすすめする本です。


某店店長でもあり、ミステリマニアとしても知られる「政宗九」によるミステリコラム。
これを読めば、あなたもミステリ通です。

2021/10/07 更新

あなたも3分でミステリ通になれる(仮)


政宗九がおすすめする本です。


フィクション

灼熱

著者:葉真中顕

出版社:新潮社

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灼熱

葉真中顕さん『灼熱』(新潮社)は、日本人移民による殖民地が広がっていたブラジルを舞台に、勇とトキオ、二人の少年の成長を描いた小説としてまず展開します。
日本の真裏にあたる地・ウアラツーバという田舎町の弥栄(いやさか)村で住み、遥か彼方の故郷に思いを馳せながら育っていく友情。やがてトキオはピグアスというサンパウロ市内の都会に移住、勇は弥栄村に残って里子と結婚し、子どもをもうけます。

日本は戦争への道を突き進んでいました。ブラジルにいる日本人も徐々に孤立していく中、ほぼ唯一の情報源は日本から聞こえる短波ラジオでしたが、都会にいてブラジル人からの情報も入ってくるトキオと、日本人集落で暮らす勇とでは、周囲の雰囲気も変わってきていました。
そして運命の1945年8月15日。天皇陛下の玉音放送をラジオで同時に聴くことになります。難しい表現で、途切れ途切れに聞こえてくる玉音放送。もちろん日本の敗戦を意味するものでしたが、弥栄村の勇たちはそれを「勝利宣言」だと誤解しました。
恐ろしい悲劇の始まりでした……。

第二次大戦後、ブラジルの日本人移民同士が戦争の結果を巡って分断し、最終的にはテロ事件にまで発展した「勝ち負け抗争」。これは、歴史的事実です。『灼熱』の後半、第二部は、その勝ち負け抗争を元に描いています。フェイクニュースがきっかけで同胞が分断し、ついには殺し合いまで起きていく。勇とトキオの堅い友情にも亀裂が入っていきます。

嘘を嘘で塗り固め、それを信じていく異常事態を、今の私たちは「絵空事」「昔の事」と嗤うことができるのでしょうか? 簡単に分断構造が起こっていく現在の世界や日本を想起せずにはおれない小説です。かつて地球の真裏で、何が起こったのかを知り、二度と同様な悲劇が起きないことを願うためにも、読んでいただきたい作品です。

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