おすすめの本RECOMMEND

Slow Books ~コトバのあや~
高垣亜矢がおすすめする本です。
日本人が奏でる『コトバの音符』。言葉が織りなす模様“言葉の文(あや)”日本人が使う巧みなコトバ、本の中に見え隠れする「コトバのあや」
本をじっくりと読んでいると、その中に光る作者の巧みなテクニック。高垣亜矢さんの視点で捉えた“コトバのあや”を紹介します。
2010/08/05 更新
Slow Books ~コトバのあや~
高垣亜矢がおすすめする本です。
ノンフィクション
原爆詩集 にんげんをかえせ
著者:峠三吉
出版社:合同出版

広島のいちばん長かった一日、1945年8月6日。
その日から、65年の歳月が流れている。
その日が近づくと、思いだす詩がある。
「 ちちをかえせ ははをかえせ
としよりをかえせ こどもをかえせ
わたしをかえせ わたしにつながる にんげんをかえせ
にんげんの にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえせ 」
峠三吉の「にんげんをかえせ」である。
小学6年生の時の平和集会で、私はこの詩のほかに、原爆にあった子どもたちが書いた何篇かの詩を朗読した。暑い体育館で、読みながら汗がだらりだらりと滴り落ちていたけれど、あの日の暑さとは比べものにならない。声も震えた。それは緊張からくるものでもあったけれど、詩の持つ力に圧倒されていたのだと思う。
今でも憶えているのは、ジーワジーワジーと鳴く蝉の声が聞こえなくなり、静かな空気に包まれて、ことばに集中できた一瞬だ。
その感覚が何であったのか。
今なら、少し、わかるような気がするのだ。
“ わたしにつながる にんげんをかえせ ”
けっして忘れてはならない、ことばである。
伝えていかなければならない、ことばである。