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Slow Books ~コトバのあや~

Slow Books ~コトバのあや~

高垣亜矢がおすすめする本です。


日本人が奏でる『コトバの音符』。言葉が織りなす模様“言葉の文(あや)”日本人が使う巧みなコトバ、本の中に見え隠れする「コトバのあや」
本をじっくりと読んでいると、その中に光る作者の巧みなテクニック。高垣亜矢さんの視点で捉えた“コトバのあや”を紹介します。

2009/04/15 更新

Slow Books ~コトバのあや~


高垣亜矢がおすすめする本です。


フィクション

ステップ

著者:重松 清

出版社:中央公論新社

定価:1,680円

ステップ

 実は、父娘の物語に弱いのです。なぜなんだろう。
シゲマツ節で泣かされるのを覚悟して読み始めました―。 
 

 結婚3年目で妻・朋子が逝ってしまった―。残された“パパ”健一と娘・美紀が、うつろう季節の中で一緒に成長してゆく物語です。父娘二人三脚とはいっても、周囲には義理の両親をはじめさまざまな人たちがいて、あたたかく二人を支えてくれます。時には普通の家庭ではないと偏見を持たれることもあります。歯がゆい思いの中で、二人なりの答えを見つけ、お互いを支えます。やがて健一は、大切な人を失くした悲しみを“乗り越えていく”のではなく、悲しみと付き合っていくものなのだと気付きます。それは誰かが教えてくれるのではなく、自分たちが生きてきた日々が教えてくれたのだと。
 ほっこり、ほろりとさせられる本作。二人のホップ、ステップ、ジャンプを心から応援したくなります。

 普通の家庭ってなんなのでしょう。
作中でも健一が自問しています。
“—家族はまんまるでなければなければならないのか?
 必要なメンバーがすべて揃って、誰が決めたのかもわからないような輪郭を余白なく満たしていなければ、ふつうとは呼ばれないのか?“
 そう、ふつうって、誰が決めるのでしょうね。

 健一と美紀は、最小の単位で、誰かが勝手に決めた“普通の世界”—多数決をしたら健一と美紀ははじきだされてしまう―を生き抜こうとします。小さな美紀も、けなげに、必死で。
 私が父娘の物語に惹かれるのは、そういう姿を通して、今私たちが生きている世界の矛盾が垣間見れるから、なのでしょうか。

 それもあるけれど。

 健一が、いつも亡き妻・朋子を想っていたり、美紀に亡き妻の面影を見てどぎまぎしたりする姿がたまらなくせつなく、愛おしい。
 そう、男性のロマンティズムが、そこはかとなく流れていて、心のやわらかいところにすぅっと沁みてくるのです。

 こんな男性に恋をすると大変そうだ。一番にはなれないから。
それでも、“普通”と戦う父娘のそばにそっといたいと思ってしまうかも。
 健一の恋を詳しく…
 それは野暮というものかな。

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