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Slow Books ~コトバのあや~

Slow Books ~コトバのあや~

高垣亜矢がおすすめする本です。


日本人が奏でる『コトバの音符』。言葉が織りなす模様“言葉の文(あや)”日本人が使う巧みなコトバ、本の中に見え隠れする「コトバのあや」
本をじっくりと読んでいると、その中に光る作者の巧みなテクニック。高垣亜矢さんの視点で捉えた“コトバのあや”を紹介します。

2009/08/05 更新

Slow Books ~コトバのあや~


高垣亜矢がおすすめする本です。


ノンフィクション

荒木経惟写真全集3 陽子

著者:荒木経惟

出版社:平凡社

定価:2,242円

荒木経惟写真全集3 陽子

天才写真家アラーキーが、“愛しの”妻・陽子さんを撮った写真集。出会った頃から、最期まで。ふたりが醸し出す濃密な空気に、時々むせてしまいます。だけど、それはすべて、幸福感であり、とてもうらやましく思います。
「少女っぽいとことか、娼婦っぽいとことか、おかあさんぽいとことか、彼女はいろんな顔を見せてくれたね。」と、アラーキーは懐古しています。
 最初の頃は、“芸術”に挑んでいるような写真が多くあります。“スリップ姿に眼帯”で縁台に座る陽子さんの写真はもうエロスそのもの。
 陽子さんの目も憂いにみちていたり、鋭かったり…。その目と口の表情がたまらなく、まばたきをするのも忘れるほど見入ってしまいます。
 その一方で、日常を映し出している写真もあります。
 私が好きなのは、新婚時代のアパートで、エプロンをつけてそうじをする陽子さん。台所でりんごを切ったり、アイロンをかけたりする陽子さん。はにかむ表情が愛らしい。「いやだ、もう。」とか言ってファインダー越しに夫と笑いあう声が聞こえてきそうです。なんだかままごとみたいでほほえましくてくすぐったい。
 女性は、いろんな表情を持っています。
でも、今、自分がどんな表情をしているのかなんて、わからない。
じゃぁ今君はこんな表情だったよ、と写真を見せられるのは嫌(いいものならともかく)。
 だけどその相手が、自分の愛する人、もしくは、芸術の神様に愛されている偉大なる天才写真家であるならば。
 無防備にさらけだすでしょう、自分の表情のすべてを。見たことのない表情でさえも。無機質なカメラのファインダー越しに、愛する人の、天才の、熱い眼差しを感じながら。
 陽子さん。あなたは、見事にふたつの条件をクリアしていらっしゃいますね。
なぜ、こんな表情ができるのか、少しわかったような気がします。

 私は写真を撮られるのが苦手です。はにかんでしまいます。
 好きな人に撮られる時でさえはにかみます。だめですね。いえ、はにかみながら、ファインダーを見つめます。だから、ちょっとは違うはず。

 陽子さんも、他人に撮られてるときの顔、ちょっと違う。

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