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Slow Books ~コトバのあや~

Slow Books ~コトバのあや~

高垣亜矢がおすすめする本です。


日本人が奏でる『コトバの音符』。言葉が織りなす模様“言葉の文(あや)”日本人が使う巧みなコトバ、本の中に見え隠れする「コトバのあや」
本をじっくりと読んでいると、その中に光る作者の巧みなテクニック。高垣亜矢さんの視点で捉えた“コトバのあや”を紹介します。

2009/09/14 更新

Slow Books ~コトバのあや~


高垣亜矢がおすすめする本です。


フィクション

七夜物語

著者:川上弘美

出版社:朝日新聞連載中

七夜物語

朝は苦手だ。
 目覚ましのタイマーが鳴っても、ぐだぐだと夢の続きを見ようとする。夜が過ぎ去っているのが悲しいとさえ思う。
 もうすこーし若い時はこんなことはなく、色気がないと言われるぐらい目覚めがよかった(どうして寝起きの悪いほうが女らしいのかよくわからないが)。
なのに、いつからか、うにゃうにゃぐだぐだ。昔の私と取り替えたいぐらいだ。

 だけど、最近はちょっと違う。
 新聞受けに新聞が届くがたんという音を楽しみにするようになった。
 朝日新聞で、川上弘美さんの連載小説「七夜物語」が始まったからだ。しかも挿絵は酒井駒子さんである。
 小4の女の子“さよ”が異世界への入り口を見つけ、新しい出会いと体験を通して少女へと成長していく物語だという。
 なんとも川上ワールドらしいではないか。
“さよ”というひらがなの名前の響きにもうやられてしまった。

 この連載を味わって読むための時間を捻出しなければならない。そうなると、うにゃうにゃぐだぐだをやめるしかない。
 目を覚まして、夢を反芻したあと(この習慣だけはやめられない)、「七夜物語」の昨日までの話と絵を思い出す。あぁそうだそうだ、続きはどうなるのだ、と思いながら起き上がる。そして新聞を取り、がさがさと連載を探す。寝ぼけまなこで探すので、ちと遅い。そんな目でざっと小説の欄を見ると、酒井駒子さんの絵が目にやさしく、そして川上弘美さんの漢字とひらがなの絶妙なバランスも目にやさしく、徐々に目がひらいてくるのである。それと同時に、アタマが動き出すのも感じるのである。
 なんだろう、この感じ。
 あぁ、起き抜けに飲む水のおいしさと同じなんだ。

 物語はまだ始まったばかりである。
 これから、このふたりにどこへ連れて行かれるのか。楽しみだ。

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