おすすめの本RECOMMEND

KEIBUNSHA

Slow Books ~コトバのあや~

Slow Books ~コトバのあや~

高垣亜矢がおすすめする本です。


日本人が奏でる『コトバの音符』。言葉が織りなす模様“言葉の文(あや)”日本人が使う巧みなコトバ、本の中に見え隠れする「コトバのあや」
本をじっくりと読んでいると、その中に光る作者の巧みなテクニック。高垣亜矢さんの視点で捉えた“コトバのあや”を紹介します。

2010/03/21 更新

Slow Books ~コトバのあや~


高垣亜矢がおすすめする本です。


フィクション

ナニカアル

著者:桐野夏生

出版社:新潮社

定価:1,785円

ナニカアル

 約2年前。新聞書評で、桐野夏生が林芙美子の『放浪記』を愛読していることを知った。女性の欲深さを目を覆いたくなるぐらい赤裸々に描き出す桐野ワールドを思い浮かべ、妙に納得。その後、「週刊新潮」で林芙美子を主人公にした小説の連載が始まり、単行本化を心待ちにしていた。あの桐野さんが林芙美子を描くなんて、すごいことになるぞ、と。
 従軍作家でもあった林芙美子。戦場の恐怖にさらされながらも、秘められた愛への激情は抑えきれず、貪欲に愛を求め続ける。それが、罠だと知りながらも。
 「早く早く、と飢えた人間のように互いを貪ろうとするのは、どうしてだろう。早く結ばれないと、思い出せない。早く愛し合わないと、忘れてしまう。私たちは、遠い彼方から思い出をたぐり寄せるようにして、しっかりと抱き合った。」
 尾道では少女時代の林芙美子しか語られない。それが物足りなくもあった。本作では、生々しい女の部分が桐野節であぶり出され壮快。だけど途中から、これは林芙美子なのか、作者自身なのか、女の性(さが)なのか、よくわからなくなってしまった。何かある、何かあるんじゃないかって、思いをめぐらせてしまった。あれ、この言葉って……。
 そう、誰もがなにかあるんだよ。
 追記。桐野夏生「IN」(集英社)
    太田治子「石の花 林芙美子の真実」(筑摩書房)
     …この2作を読んでまた本作を読むことをおすすめします。

おすすめの本一覧へ