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Slow Books ~コトバのあや~

Slow Books ~コトバのあや~

高垣亜矢がおすすめする本です。


日本人が奏でる『コトバの音符』。言葉が織りなす模様“言葉の文(あや)”日本人が使う巧みなコトバ、本の中に見え隠れする「コトバのあや」
本をじっくりと読んでいると、その中に光る作者の巧みなテクニック。高垣亜矢さんの視点で捉えた“コトバのあや”を紹介します。

2015/03/09 更新

Slow Books ~コトバのあや~


高垣亜矢がおすすめする本です。


フィクション

水声

著者:川上弘美

出版社:文藝春秋

水声

著者5年ぶりの長篇小説。第66回読売文学賞受賞作。
タイトルは、すいせい、と読みます。
すいせい、とは、水の流れる音、という意味です。
すいせい、と口にすると、すがすがしいような、でも、どこかひめやかな気もします。
作品からは、いろんな声が、音が、聞こえてきます。
話し声、鳥の声、水の音、時計の音、ふたりの息づかい。

物語は、都と陵という姉弟を中心にすすみます。ふたりの家族の複雑な血縁の謎をときほぐしながら。
離れて暮らしていたふたりでしたが、陵は地下鉄サリン事件をきっかけに眠れなくなり、家族で暮らした家で都と同居を始め、やがて一緒に眠ります。

ふたりの背後には、ひとつの家族の時間に起きた事件がうっすらと描かれています。太平洋戦争、日航機墜落、昭和天皇崩御、地下鉄サリン、二度の震災。
それらの現実は、ふたりの孤独をより深めていきます。
だだっ広くて白っぽい野に投げ出されているようだと感じる陵。
寄り添うふたり。白い野から水底にもぐり銀色にきらめきからまりあう太刀魚のように。

関係の意味を考えようとする都を陵は遮ります。そこから何かがもれていったり、入り込んでしまうから、と。生の意味も愛の意味も考えないし、何も生みだしたりしない。
「体を使っていたのに、体のためのものではなかった。何かの証明のように、わたしたちは体を利用しただけなのだ。」

でも都は、本当は、言葉が欲しいのです。
「言葉で決まるかたちなんて何もないことを知っているくせに、もっともっと欲しかった。」
そんな切迫した思いからやがて都は抜け出し、言葉が、声が、互いの心をやわらかくほぐすものであると気づきます。たわいのない、毎日のよしなしごとでいい。それが互いの心情を察することに長けさせてゆくのだと。

終盤、冬から春へ季節がうつろいます。いつのまにか春の光が水面できらめき、流れはいつのまにかふたりを浮かび上がらせています。どうかおだやかな地平にたどりつけますように。どうか誰もが世界の涯に怖れることなくすこやかに眠れますように。

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