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Slow Books ~コトバのあや~

Slow Books ~コトバのあや~

高垣亜矢がおすすめする本です。


日本人が奏でる『コトバの音符』。言葉が織りなす模様“言葉の文(あや)”日本人が使う巧みなコトバ、本の中に見え隠れする「コトバのあや」
本をじっくりと読んでいると、その中に光る作者の巧みなテクニック。高垣亜矢さんの視点で捉えた“コトバのあや”を紹介します。

2010/06/20 更新

Slow Books ~コトバのあや~


高垣亜矢がおすすめする本です。


文庫

別人「群ようこ」のできるまで

著者:群ようこ

出版社:文藝春秋

別人「群ようこ」のできるまで

 私が“就活”をしていたのは、90年代のおわり、「就職氷河期」と言われていた頃だった。大学の就職課に呼び出しをくらい、「芸術学科はみんなのんびりしてる。ましてやあなたは地方出身だ。夢みたいなことは言ってられないんだよ。」と脅された。
 あわてて活動を始めたものの、志望の業種には新卒採用がほとんどない。あっても狭き門で、なんとか面接にこぎつけても、厳しい面接で見事に不合格をくらう。地方だから、一人っ子だから、背が小さくて迫力がない、だとか。帰りの電車の中で、サラリーマンやOLを見るたび、仕事に就けているその人たちを心底尊敬した。

 そんな時、『別人「群ようこ」のできるまで』を読んだ。群さんが新卒で広告代理店に就職後、転職を6回し、本の雑誌社に入社。その後作家として独立するまでを描いたものだ。
 嫌な上司、延々と続く残業、同僚との愚痴話、ひとりぼっちの電話番、言うことを聞かないバイトたち…。
 女性が働くことの大変さがそこにはぎっしりとつまっており、お守りとしてこの本を鞄に入れて電車の中でくりかえし読んだ。
 その後、このお守りのおかげで奇跡的に就職できたのだが、想像以上にきつい毎日を送ることになった。トイレで泣き、給湯室で泣き、電車の中で泣き。同期はおらず、ひとり右往左往。自分の甘さを思い知る日々。
 またもやこの本の出番である。今度はずっとリアルに群さんの文章が胸に迫る。そして群さんなりのやり方で苦難を乗り越えていくところに爽快感をおぼえた。

 私もその後転職を3回した。そのたびに、この本をひっぱりだした。もうぼろぼろである。よれているのは、涙を吸ったせいか。
 今、書店員として、群さんの本や、“本の雑誌社”の本を仕入れ、並べていることの不思議さをしみじみと思う。そして、こうしてぶつぶつとつぶやきながら文章を書いている不思議さも。
 この本と出会わなければ、どう乗り越えてきたのだろう。そもそもこの本をなぜ書店の棚から抜き出したのか。その記憶だけがとんでいる。群さん、棚から「社会を知れ!」と叫んでくださったのですね。ありがとうございました。

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